あらゆる転職媒体や求人票には必ずと言っていいほど設けられている「求める人物像(求める人材)」という記載項目。採用するための必須条件やハードルを設定するだけでなく、時には「どのような人柄の方と働きたいか」といった要望や、企業として伝えたいメッセージを含めることもできる箇所です。一方で、何を書けばいいかわからないという人事の方や、どう打ち出すべきか悩んでいる制作者の方も多いのではないでしょうか。
今回は「求める人物像」欄を活用して、採用ターゲットにうまくアプローチする方法や、具体的な表現のコツについて紹介します。
株式会社フォートリー
代表取締役社長
取材ライター・採用支援コンサルタント
求人広告代理店にて制作組織の立ち上げを牽引。エンタメ業界での執筆経験を活かした切り口で、あらゆる業種・職種の採用に貢献。現在までに約800社、4,000本ほどの広告制作に携わる。独立後は、人材採用に特化した制作ノウハウを活かした採用コンサルティングを中小企業向けに展開。
求める人物像とは
「求める人物像」とは、会社がどのような人材を求めているのかを言語化したものです。
「求める人物像」を採用ペルソナと言い換える場合もありますが、私は必ずしも両者はイコールではないと考えています。採用ペルソナは、自社が採用を考えているターゲットを細部にわたって具体化し、実際に存在する一人の人間そのもののようにイメージできるようになるまで作り上げるものです。一方で、「求める人物像」とは必ずしも一人の人間レベルにまで細分化された設定ではなく、むしろ企業の目指すビジョンを反映した理想像や、求職者に向けて企業が発信したいメッセージが込められている場合もあると感じています。
求人広告にも「求める人物像」を記載する項目があります。各社によって呼び方は異なるものの、大抵の転職媒体や求人広告掲載サイトには必須の記入項目として設けられています。参考までに、大手転職メディアで使われている各社表記は以下の通りです。
・リクナビNEXT:求めている人材
・マイナビ転職:対象となる方
・転職サイトdoda:対象となる方
・イーキャリア:求める人物像
・type:応募資格
・Wantedly:こんなことやります など
こうして並べてみると、案外「求める人物像」とストレートに記載しているメディアが少ないのは私としても盲点でした。しかしながら実際のところ、取材や営業との打ち合わせ、企業人事様とのすり合わせでは「今回の求める人物像って~」と言った表現が頻出します。ここでは上記に挙げた表記を冠した欄すべてを、簡易的に「求める人物像」として扱うこととします。
「求める人物像」に書くべき内容
求人広告における「求める人物像」の項目には、採用する上で必須となるスキルや経験といった条件面から、応募者に求める人柄や要素、あるいは社会人経験年数といった点まで、さまざまな要素を盛り込むことができます。
私が実際に取材から制作を行う際には、以下をベースとしたヒアリングを行っています。
MUST条件
採用するポジションで業務を行う上で必須となる条件のこと。
<例>
・業務を行う上で取得しておくべき資格
・業務遂行スキル
・省令3号のイに伴う長期勤続によるキャリア形成(35歳以下まで)など。
WANT条件
採用を行う上で歓迎または優遇する条件のこと。なくても構わないが、あった方がより嬉しい要素。ここを設けることで対象となる母集団は少なくなるものの、うまくハマれば「まさにこんな人が欲しかった」と膝をぽんと叩けるようなドンピシャスキルを持った人と出会える条件でもあります。
<例>
・未経験でも構わないが、「経験3年以上」ある人は更に望ましい。
・業界経験は問わないが、「同業他社での経験」があれば優遇する。
・ここだけの話、できれば若手の方が… など
どんな人柄の人物が適しているか
スキルや技術といった条件以外に、人柄や志向性といったパーソナリティの部分も採用マッチングには重要な要素です。現在活躍している先輩にはどのような人柄の方が多いのか、あるいは、今の職場へ新たにどのような志向の人をアサインしたいのかといった内容も「求める人物像」に記載できます。
<例>
・人と人をつなぐコミュニケーションが好きな方
・コツコツ真面目に、目の前の作業に集中したい方
・深く考えるよりも「まずはやってみよう」と動き出せる方 など
このように「求める人物像」は単なる採用条件を記載する欄ではなく、企業から応募者に向けたメッセージを伝えられる箇所でもあるのです。
求める人物像の書き方における注意点
「求める人物像」が、単に応募の足切りハードルに用いる項目でないことはおわかりいただけたことと思います。応募者は転職メディアや各種転職媒体に掲載されている求人広告から、企業が抱く本音や真意を読み取ろうとしています。求人広告を掲載する上で、「求める人物像」をどのように書くかは、採用成功の可否を大きく左右するといっても過言ではないでしょう。
企業から一方的に条件を押し付けない
よくやりがちな失敗例として、企業が求める条件を一方的に押し付けてしまうというものがあります。読む側の視点を考えず、あれも欲しい、これもなければだめだと強い姿勢で要求すれば、当然それを読んだ求職者はいい気持ちにはなりません。ざっくばらんに言えば、「言っていることはわかるけど、言い方ってものがあるでしょう」となってしまうわけです。
私はこうした押し付けにも似た要求が起こってしまう根本的な理由のひとつに、「採用する側が偉い」という思想があると考えています。「採用を行う企業=選ぶ立場」という考えがあると、求職者が何を読みたいのかという視点が抜けてしまいがちになります。
採用を行う企業から見れば、応募者を選考する立場であることに間違いはありません。その一方で、求職者側もまた、掲載されている求人広告を取捨選択しているという事実を忘れてはなりません。採用ターゲットの立場に寄り添い、「どのようなラブコールを受けたら嬉しいのか」を前提としたワードチョイスを心掛けましょう。
曖昧な表現より具体的な事例を入れる
特に人柄を求める際にありがちですが、「コミュニケーション能力がある人」「明るい方」などの曖昧な表現は、具体性に欠けるため想像がつきにくい面があります。仮に条件に当てはまっている人材がいたとしても、条件自体がふんわりとしているため、自分の事を言われているのだとは自覚しにくいでしょう。
たとえば、業務上のどのようなシーンで該当の人柄や志向が活きるのかといった点を併記すれば、より具体性が上がります。抽象的な言葉は便利ですが、多用は避け、「なぜこうした人柄の人材が活躍できるのか(あるいは活躍しているのか)」を実際の行動例にまで落とし込んで表現するとよいでしょう。
<例>
・コミュニケーション能力がある方→相手の話を傾聴し、論点を押さえてわかりやすく伝えられる方
・明るい方→明るい笑顔で「いらっしゃいませ!」とお客様をお迎えできる方
・基本的なPCスキル→Excelの使用スキル(関数/Vlookup) など
まとめ
「求める人物像」をはじめ、求職者は求人広告を通して、企業のスタンスや伝えたいメッセージを汲み取っています。どのようなメッセージを発信するかによって、受け取り手の応募意欲や転職の意向は変化します。応募者から見た場合、掲載している求人広告の内容はどう映るのか、今一度見直す機会にしていただければと思います。